ユリアン・ナーゲルスマンはどんな監督?戦術やプロフィール、経歴は?

28歳でホッフェンハイムの監督に就任し、ブンデスリーガ史上最年少監督となったユリアン・ナーゲルスマン。21–22シーズンからはブンデスリーガの強豪クラブバイエルン・ミュンヘンの監督に就任し、クラブの10連覇達成に大きく貢献しました。ナーゲルスマンは細かな戦術を用いてチームを率いることで知られていますが、ナーゲルマン自身は選手としての経験がほとんどありません。

そんなナーゲルスマンはどのような戦術を取り入れているのか、またプロフィールや経歴について詳しく紹介して行きます。

目次

ユリアン・ナーゲルスマン(Julian Nagelsmann) プロフィール・経歴

プロフィール

国籍ドイツ
生年月日1987年7月23日
出身バイエルン州ランツベルク
身長189cm
選手時代ポジションCB
監督成績ブンデスリーガ優勝:1回(2021–2022)
個人成績VDVシーズン最優秀監督(2016–2017)
ドイツ年間最優秀監督(2017年)

家族は奥さんと2人の子供に恵まれていましたが、21–22シーズン終了後、離婚を発表し現在は子供とも離れて暮らしています。

ナーゲルスマンはどんな人?

ナーゲルスマンは最新の技術やデータを指導に応用して指導することが特徴的で、ホッフェンハイム時代には練習で巨大スクリーンを導入しフィードバックをその場で選手に伝えていたことでも有名な監督です。こういった戦術面で話題になることが多くなりますがナーゲルスマン自身は、「戦術は70%、残り30%は人心掌握」と語っており選手の心を掴むことを重要視しています。そのため選手からの批判なども歓迎しており、選手からシステムを変えすぎるという意見が出た際には、選手の意見を尊重し試合中にシステムを何度も変更することはなくなったとのこと。

また派手なファッション整形を公表したことでも話題となりました。全身レッドの服装や派手なジャケットを着こなすなど服装が注目を集めたかと思えば、2018–2019シーズンには顔の整形を行ったことを公表するなどクラブの顔として見た目の面でも話題に事欠かない監督と言えます。

経歴

選手経歴

  • 2002-2006 1860ミュンヘン🇩🇪(ユースチーム)
  • 2006-2007 1860ミュンヘンⅡ🇩🇪
  • 2007-2008 アウクスブルクⅡ🇩🇪

ナーゲルスマンは189cmの長身を生かしてCBとしてユース時代を過ごします。そして2002年にアウクスブルクのジュニアユースから1860ミュンヘンのU–17のチームに移籍してきました。2006–2007シーズンにはセカンドチームに昇格するも怪我の影響で試合には出場できませんでした。

その後2007–2008シーズンにはアウクスブルクのセカンドチームに移籍しましたが、アウクスブルクでも膝を負傷し公式戦出場は叶いませんでした。膝の負傷の影響からこのまま選手として活動すると歩くこともできなくなる危険性があったため20歳の若さで現役引退を余儀なくされました。

指導者経歴

  • 2008-2010 1860ミュンヘンU–17🇩🇪(アシスタントコーチ)
  • 2010-2011 ホッフェンハイムU–17🇩🇪(アシスタントコーチ)
  • 2011-2012 ホッフェンハイムU–17🇩🇪
  • 2012-2013 ホッフェンハイム🇩🇪(アシスタントコーチ)
  • 2013-2016 ホッフェンハイムU–19🇩🇪
  • 2016-2019 ホッフェンハイム🇩🇪
  • 2019-2021 ライプツィヒ🇩🇪
  • 2021-2023 バイエルン・ミュンヘン🇩🇪
  • 2023- ドイツ代表🇩🇪

指導者になるきっかけとしてナーゲルスマンは選手を引退した際に所属していたクラブアウクスブルクⅡで当時監督だったトーマス・トゥヘルから分析担当コーチとして採用されたことがきっかけだったようです。

シーズン終了後にナーゲルスマンの分析力を評価したトゥヘルから指導者としての道を薦められこともあり2008年に1860ミュンヘンU–17のアシスタントコーチに就任しました。

その後ホッフェンハイムに移ると、2013–2014シーズンにはU–19のチームの監督に就任しU–19のクラブを優勝へ導いています。

2016–2017シーズンになるとホッフェンハイムトップチームの監督に昇格します。トップチームに就任当初28歳でブンデスリーガの監督としては史上最年少となっています。当時降格圏であったクラブを14試合で7勝2分5敗で奇跡の残留を決めました。

ホッフェンハイム2年目にはリーグ戦4位、さらに3年目には3位まで躍進し、クラブを初のチャンピオンズリーグに導きました。

2018年にはレアル・マドリードからのオファーもあったそうですが、自身が時期尚早と考えオファーを断りライプツィヒの監督に就任します。ライプツィヒではチャンピオンズリーグで躍進し、32歳231日でベスト8に進出した史上最年少監督となりました。

21–22シーズンにはバイエルンの監督に就任しクラブをブンデスリーガ10連覇へと導きました。

2023年3月、選手や上層部との確執もありバイエルンの監督を解任となりました。

その後2023年9月ハンジ・フリックの後任としてドイツ代表の監督に就任。2024年の7月までの契約で初の代表監督挑戦となります。

ナーゲルスマンの戦術は?

ナーゲルスマンは細かな戦略で戦う戦術家として知られており、相手に合わせて3バック4バックを操り試合に臨みます。選手の特徴を生かしてフォーメーションに当てはめていくシステムを考えてチーム作りをします。

またテクノロジーを好んで利用する監督で、ホッフェンハイム時代には縦3m×横6mもの大きなスクリーンにIPadから動画を再生したり説明や絵を書き込むことでより効率的にトレーニング行うことができます。もちろん現在のバイエルンのトレーニングでも巨大スクリーンが導入されています。このような最新の技術やデータを指導に応用する監督は、ナーゲルスマンを筆頭にラップトップ世代とも呼ばれています。

そしてナーゲルスマンはチームに原則を落とし込んで戦うことを意識しているようで、約27〜31もの原則を導入して戦うことが特徴的です。

  • 3バックと4バックを試合に応じて使いこなす
  • 最新の技術やデータを指導に応用して指導する
  • 約27〜31の原則を選手に落とし込む

最小限の幅でボックス占拠

ナーゲルスマンの戦術で重要な原則の1つに最小限の幅があります。普通サッカーではサイドの幅を使うことが必然的に多くなりますが、ナーゲルスマンはその逆でピッチの幅をあまり使わず、ペナルティエリアの幅に選手を配置して攻撃をしていきます。

ペナルティエリアの幅の中に選手が収まることでシュートがこぼれてもリバウンドを拾える可能性が高くなることと、奪われたとしてもすぐにゲーゲンプレスに切り替えてボールを奪いやすくなるメリットがあります。

さらに味方同士が近い距離を保っていることで、パス交換もしやすく全員が攻撃に絡めることも強みになります。

このように最小限の幅を保って攻めることで、ペナルティエリア内に人数をかけて攻め込むことを理想としており、そうすることで相手もDFに人数をかけざるを得なくなりカウンターを防ぐという意味でも効果があります。この形をナーゲルスマンはボックス占拠とも読んでいます。

最小限の幅ボックス占拠などアタッキングサードでは最小限の幅を提唱していますが、ビルドアップの場面ではサイドの幅を使っており失点につながる危険性がある位置ではサイドを経由し繋いでいくことが基本となっています。

最小限の幅 配置例 (22–23シーズン)

最小限の幅とは上記の図のようにサイドのレーンを使わずペナルティエリアの幅に全員が収まり攻撃する戦術

2タッチプレーとレイオフパス

ナーゲルスマンは基本的にダイレクトパスよりも2タッチプレーを好んでおり原則としてチームに落とし込んでいます。2タッチを課している理由としてダイレクトパスはプレースピードが上がるほど失敗する確率が高くなるため、1度トラップしてからパスをする方が成功確率が高いという考え方です。そのため2タッチプレーに必要な「止めて・蹴る」の技術を常に高めることが重要になってきます。

2タッチを基本としてるナーゲルスマンですが、状況に応じてダイレクトプレーを使う場面もあります。それがレイオフパス、つまり後方からのパスに対してダイレクトで戻す落としのパスのことです。ドイツ語ではシュタイル・クラッチュとも呼ばれるレイオフパスですが、ナーゲルスマンの原則では普通のレイオフパスとは異なり、45度から120度のワンタッチでパスコースを変えるフリックパスに似ています。ビルドアップの場面ではこのレイオフパスを多用し前進していく場面が多くみられます。

また、単純なレイオフパスだけでなくレイオフすると見せかけて反転するなど細かなアレンジも見られより多彩な攻撃につながっています。

レイオフパスの例

ウイングバックのジョーカー化

ナーゲルスマンが得意なシステムで3バック+両ウイングバックの形があります。その中で重要なポジションがウイングバックで、ナーゲルスマンはウイングバックの選手をジョーカーと呼んでいます。ジョーカーは通常のウイングバックとは違いペナルティエリアの角付近を主戦場とします。そのためゴール前に人数をかけて攻撃でき相手がマークにつきづらくなります。

またジョーカーは攻撃だけでなく守備に戻ることも必要で攻守に渡って多くのタスクをこなす高い適応力が必要になってきます。

ナーゲルスマン フォーメーション

ナーゲルスマンは3バックをベースとしながらも、試合に応じて臨機応変にシステムを変更します。さらに、ナーゲルスマンのシステムで特徴的なのが攻撃時と守備時で立ち位置が変わるなど可変システムを多用しているところでしょう。

可変フォーメーションにより数的優位を作りやすくなるメリットがあり、また守備ではプレスをかけやすいという特徴があります。

ホッフェンハイム 5–3–2

ホッフェンハイム 18–19シーズン

ホッフェンハイムでは奇跡の残留を果たし、18–19シーズンにはチャンピオンズリーグにも進出しました。ホッフェンハイムでも様々なシステムを多用していましたが、5–3–2の形がメインの形となります。この形では3バックの選手とアンカーが中心となりレイオフパスを多用したビルドアップを行います。

また丁寧なビルドアップだけでなく対角線へのロングボールも多く見られ、相手のサイドバックの裏を狙っていくロングキック戦術が特徴的です。そのため、ウイングバックの選手は大外からサイドバックの裏への抜け出しを積極的に狙っていきます。

ライプツィヒ 3–4–2–1

ライプツィヒ 20–21シーズン

ライプツィヒでもメインとなるフォーメーションは3バック。この形ではジョーカーの役割であるアンヘリーニョの活躍が目立ちました。ジョーカーは通常のサイドバックの役割だけでなくペナルティエリア内にも侵入し、得点に絡むプレーが求められます。アンヘリーニョは20–21シーズンに公式戦8ゴール11アシストの活躍を見せ見事ジョーカーとしての役割を果たしました。

バイエルン・ミュンヘン

4バック 4–2–3–1

バイエルン・ミュンヘン 22–23シーズン

22–23シーズンバイエルンのフォーメーションは基本的に4–2–3–1の形が多く見られます。その中でも最小限の幅の原則通り中央に人数をかけて攻める攻撃が強みとなっています。得点数も20節時点で59得点と爆発的な攻撃力を見せています。

3バック 3–5-2

バイエルン・ミュンヘン 22–23シーズン

第20節で見せたのがこの3–5–2のシステム。今冬加入したカンセロをウイングバックでジョーカーとして起用できる形となっています。また中央にムシアラ、サネといった突破力のある選手を並べているため中央からドリブルで仕掛けることで相手に脅威を与えます。

今シーズン比較的4バックで試合に臨むことの多かったバイエルンですが20節のボーフム戦では3バックの形で3–0と快勝しているため今後もこのシステムが増えてくるかもしれません。

バイエルン・ミュンヘン(22–23)メンバー・フォーメーション

参考書籍 「ナーゲルスマン流52の原則」

スポーツライターの木崎伸也さん著書の「ナーゲルスマン流52の原則」こちらの書籍ではナーゲルスマンの細かな原則を詳しく書かれておりその原則を試合でどのように活用されているのか分かりやすく紹介されています。

最小限の幅やウイングバックのジョーカーの役割など今回紹介した物など合わせて30もの原則が書かれています。

またサッカーの戦術以外にもナーゲルスマン自身「戦術は30%、残り70%は人心掌握」と話していたことから選手との関わり方や、大きな試合の時の細かい状況などナーゲルスマンの人物像を知ることもできます。

ナーゲルスマンの戦術や人柄など詳しく知りたい方は手に取ってみてはいかがでしょうか。

まとめ

今回は若きドイツ人監督ユリアン・ナーゲルスマンについて紹介しました。ナーゲルスマンは緻密な戦術で試合に臨むことで知られており、さらに細かい原則がいくつもありその原則に従った戦い方でブンデスリーガを席巻しました。そんなナーゲルスマンの次なる挑戦としてドイツ代表監督に就任。不調が続くドイツ代表を立て直せるか注目です。

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